中材業務【洗浄と滅菌】安全な再生処理と感染制御

歯科医療も含めて、診療に使用した医療器具を安全に再使用するための再生処理と感染制御についてわかりやすく解説しています。

医療用グローブのアレルギー対策【原因の排除】

術衣を着た人がラテックスグローブを装着している写真


医療機関や介護施設などで働く場合に、個人防護具として「グローブ」(使い捨て手袋)を必ず使用しなければなりません。

自分と相手を守るために不可欠なグローブですが、中には辛い過敏症状で悩んでいる人がいます。

ラテックスグローブのアレルギーやパウダーの害については広く知られており使われなくなっていますが、それらの原因物質を含まない製品でも過敏症状が発生しています。

有害な過敏症状とその原因を理解して、あなたを苦しめる辛い症状から解放されましょう。

グローブによる接触皮膚炎 3つのタイプ

グローブを装着した手の皮膚に起こる「かぶれ」の症状は「接触皮膚炎」と呼ばれるのものです。

「接触皮膚炎」の中でグローブによる過敏症状は、「Ⅰ型(即時型)アレルギー反応」「Ⅳ型(遅延型)アレルギー反応」「刺激性接触皮膚炎(非アレルギー)」の3つといわれています。

その他に「接触皮膚炎症候群」と「全身性接触皮膚炎」がありますが、ここではグローブに関連した局所の過剰反応について説明します。

アレルギー性接触皮膚炎:免疫アレルギー反応

 細菌やウィルスなど有害な異物が体内に侵入すると、これらを自力でやっつける「免疫反応」という防御システムが働きます。

この仕組みが正常に働いている時は問題ないのですが、人にとって無害なものや普通では反応しないほんのわずかな量に対してまで過剰に反応してしまう状態をアレルギーといいます。

自分にとって不都合な「過剰反応」を起こしているのです。

更に、過剰なアレルギー反応は異物ではない自分自身をも攻撃してしまう「自己免疫疾患」となる場合もあります。

アレルギー反応の特徴によって、次の4つに分類されています。 

Ⅰ型(即時型)アレルギー反応:5~30分で出現

 肥満細胞とIgEが関係しており、重症型はアナフィラキシーショックとなって死亡することもあります。

ラテックスアレルギー、じんましん、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(蕎麦・ナッツなど)、蜂毒アレルギー、喘息など。

 

ラテックスアレルギーは、天然ゴムに含まれているタンパク質がアレルゲン(抗原)となって感作が成立します。

主な皮膚症状は、掻痒感、紅斑、じんましんなど。

全身症状として、目の刺激、喉のかゆみ、気管支ぜんそくなど呼吸器の反応を起こし、重篤な場合にはアナフィラキシーショックで呼吸困難、血圧低下を起こします。

ラテックスと類似した抗原構造を持つ食品に対しても交叉反応を起こすことがあり、「ラテックス・フルーツ症候群」を発症する可能性があるため注意が必要です。

(栗、バナナ、キウイなど)

Ⅱ型(細胞障害型)アレルギー反応

 細胞抗原に対するIgGやIgM抗体反応。

天疱瘡・類天疱瘡、溶血性貧血、重症筋無力症など。

Ⅲ型(免疫複合型)アレルギー反応

 IgG、IgMあるいはIgA抗体と抗原が結合してできた「免疫複合体」が組織に沈着して補体を活性化することで、臓器障害を起こします。

糸球体腎炎、SLE、関節リウマチ、血管炎など。 

Ⅳ型(遅延型)アレルギー反応:6~48時間後に出現

 感作Tリンパ球による反応で、6~48時間後に症状が出現し48時間が反応のピークとなります。

症状が4日間も持続する場合もあります。

化学物質アレルギー(加硫促進剤など)、金属アレルギー、接触皮膚炎、薬疹、アトピー性皮膚炎など。  

刺激性接触皮膚炎:非アレルギー性

 触れたもの自体の毒性や刺激性が高い場合に発症する皮膚炎です。

酸やアルカリ製品、毛虫や昆虫の毒など。

アレルギー反応ではありませんが、グローブの着用による皮膚の閉塞や汗で湿るなどの刺激によって、発赤、乾燥、鱗屑(りんせつ:皮膚がむけ落ちる)、かゆみなどの症状を起こす場合があります。

 グローブのパウダー

手袋の装着をスムーズするために、以前はよくパウダーが使用されていました。

このパウダーの原料はコーンスターチで、それ自体はアレルゲン(抗原)にはならず免疫反応には関与しないものです。

ところが、パウダーはラテックス抗原を吸着するためアレルギーの原因のキャリア(運搬役)となります。

パウダーに含まれているラテックス抗原が皮膚に密着するため、ラテックスアレルギーを起こすので非常に危険です。

そのため医療用のグローブには、パウダーの使用は禁止されるようになりました。 

光接触皮膚炎

 皮膚に付着したものが光と反応して発症する皮膚炎です。

紫外線吸収剤が入った日焼け止めや、非ステロイド系消炎鎮痛薬(湿布)などが原因となります。

一度発症すると治りにくく、注意が必要です。

 グローブの加硫促進剤によるⅣ型(遅延型)アレルギー反応

 手袋の製造工程で添加された低分子の化学物質が原因で発症するアレルギー反応が近年問題になっています。

主な症状は、発赤、ヒリヒリ感、亀裂・ひび割れ、水疱など。

加硫促進剤は主に3種類あり、単独か2種類以上を組み合わせて使われています。

天然ゴム、合成ゴム(ニトリル)の両方で、グローブの弾性・耐熱性・耐疲労性を持たせるために「加硫」(硫黄による架橋)を行っています。

この「加硫」(硫黄架橋)の反応時間が長いので、反応を促進して時間を短縮しゴムの安定化を得るために「加硫促進剤」という化学物質を添加しています。

 チウラム系化合物

チウラムは、アレルギー性接触皮膚炎の原因となる物質です。

日本人の多く(5~7%)にアレルギー反応があるとされており、上昇傾向にあるため要注意です。

加硫処理の過程で分解され、硫黄とカルバミン塩酸を遊離させる働きをします。

メルカプトベンゾチアゾール(MBT)

人の感作反応を増幅させる原因となる危険な化学物質だということが明らかになっていますが、実際には、この化学物質による感作の発生率は、他の加硫促進剤の発生率よりも低くなっています。

MBTは亜鉛と反応しやすく、素材の硫黄架橋結合を促進して、グローブの引張強度を高める働きをします。 

ジチオカルバメート(カルバミン塩酸)

 ジチオカルバメートは、硫黄を吸収してグローブの原料中に運搬し、架橋結合と硬化を促進します。

ジチオカルバメートの感作性は、チウラムやMBTと比べてもずっと小さいものです。

ジチオカルバメートには34種類の化合物があります。

これらの化合物は亜鉛を含有しており、この亜鉛が天然ゴムラテックスの加硫促進剤の溶解性や硫黄との反応性を高める働きをしています。

 実例

 某歯学部の女子学生が、グローブによる手荒れに苦しんでいました。

いくつかの皮膚科を受診しましたが、一向に手荒れの症状は改善しません。

臨床実習場に配置されている全てのグローブで症状が出るのです。

  • ラテックスグローブ
  • ニトリルグローブ
  • プラスチックグローブ

 症状は、手指の皮膚の発赤、水疱、掻痒感です。

抗アレルギー薬を服用し、ステロイド軟膏を塗っても症状は治まりません。

 

現在採用中のニトリルグローブを、別のメーカーのニトリル製品に変更予定で検討中でした。

試用中のサンプルを渡したところ、その中の1種類にアレルギーが起きなかったのです。

そのメーカーは、特に加硫促進剤についての商品説明はありませんでした。

 まとめ

 最近では、医療用グローブによるアレルギー症状の原因は、加硫促進剤という化学物質によるものが多くなっています。

ニトリルグローブは、天然ゴムを使用せず合成ゴムでできたグローブです。

ラテックス(天然ゴム)によるアレルギー反応は起こしませんが、製品に含まれる微量の化学物質がひどい症状を起こします。

ニトリルグローブには「加硫促進剤フリー」という製品があります。

しかし、これには「製造工程で加硫促進剤を一切使用していないグローブ」と「製造工程で加硫促進剤を使用しているが最終製品からは検出されないグローブ」の2種類があります。

加硫促進剤の検出基準値を下回っている製品でも、加硫促進剤を微量に含有している場合はアレルギー反応を起こす可能性があります。

製品の詳しい成分を調べきれない場合も多いので、実際にサンプルを取り寄せて試してみることをお勧めします。

参考試料

平成28年12月27日(2016年)

「パウダー付き医療用手袋に関する取り扱いについて」厚生労働省

*保護されていない通信 

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc2397&dataType=1&pageNo=1

 

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