中材業務【洗浄と滅菌】安全な再生処理と感染制御

歯科医療も含めて、診療に使用した医療器具を安全に再使用するための再生処理と感染制御についてわかりやすく解説しています。

次亜塩素酸水の疑問や誤解をスッキリ解消!

水のテクスチャー

2020年5月26日

2020年6月8日更新

 新型コロナウィルス感染症の流行拡大に伴ってアルコール消毒薬が不足していることから、「次亜塩素酸水」が注目されています。

ところが、正しい用語の定義に当てはまらない便乗商法が横行しており、言葉の意味がわからずに混乱していませんか?

似たような言葉をきちんと理解し、安全の確保と無駄な経費節減に努めましょう。

【キーワード】次亜塩素酸水、電解次亜水、酸性電解水、電解機能水、次亜塩素酸ナトリウム、混合/中和

*おそれいりますが文中のリンクしていないURLは「保護されていない通信」のためコピペしてご覧ください

 次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム希釈液はまったく別モノ

f3つの電解水の性状と生成方法の図

出典:微酸性電解水導入のご提案 株式会社ホクエツ
http://www.hokuty.co.jp/hocl2.pdf  

 企業が勝手に「次亜塩素酸水」と謳って販売している製品で、粉や液体を希釈するタイプのものは別物であり、厚労省が認めている「次亜塩素酸水」とは違うので、注意が必要です。

「次亜塩素酸水」は、食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準に定義されています。

食塩または希釈した塩酸を生成装置内で電解することにより得られる次亜塩素酸を主成分とする酸性の水溶液であり、規格基準中第2 添加物に規定する定義に合致するものをいう。

 食基発第0610001号 平成14年6月10日(2002年)

厚生労働省医薬局食品保健部基準課長 通達 

「次亜塩素酸水の食品添加物指定に関連する資料」

規程された電解装置で作られたもの以外は、「次亜塩素酸水」ではありません。まず、この決定的な違いを理解しましょう。

 次亜塩素酸水=酸性電解水

酸性電解水(次亜塩素酸水)には、強酸性・弱酸性・微酸性の3種類があります。

次亜塩素酸ナトリウム液と酸性電解水(次亜塩素酸水)を比較した表がありましたので、引用しました。

f特性の比較の一覧表

酸性電解水(次亜塩素酸水)と次亜塩素酸ナトリウム液の特性の比較

出典:電解機能水の特性と応用-第59回日本透析医学会ワークショップより-

*「浸置き」を「浸漬」に改編

一般社団法人機能水研究振興財団は、次亜塩素酸ナトリウム液に希塩酸などを混合し希釈したものが「次亜塩素酸水」と称して出回っており、その危険性について注意喚起しています。

 参考:「次亜塩素酸水による手洗いをめぐる国会における質問主意書と答弁書に関連する見解」2020年4月15日

http://www.fwf.or.jp/data_files/view/1722/mode:inline 

次亜塩素酸水が注目された背景

 2020年4月10日の国会答弁で、医療用の認可を受けた次亜塩素酸水の生成器が一般に流通していないという理由から「次亜塩素酸水による手洗いは適用外」とされました。

その後、4月15日の有識者検討会議で、一般に流通している手指に使用できる商品の存在が指摘され、4月17日経済産業省が「手指には適応外」としていた判断を修正しました。「一部商品では手指への適応がある」という見解を発表しました。

 次亜塩素酸水をきっかけに、その他にもウィルスに有効な消毒方法の選択肢を検討することになり、4月15日独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)が「有効性評価」を開始しています。

当初は、「次亜塩素酸水・界面活性剤・第4級アンモニア塩」の3種類が候補に挙げられましたが、5月1日の経過報告で「過炭酸ナトリウム」も選択肢に加えられました。

新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価を行います (METI/経済産業省)

消毒方法の有効性評価について、途中経過をお知らせします (METI/経済産業省)

新型コロナの消毒液不足はいつ解消? 代替品は? 経産省で聞いた(TOKYO HEADLINE WEB) - Yahoo!ニュース

【速報】効果のある界面活性剤 2020年5月28日

新型コロナウイルスに有効な界面活性剤を公表します(第一弾) (METI/経済産業省)

新型コロナウイルスに有効な界面活性剤を公表します(第二弾) (METI/経済産業省)

2020年5月22日 4種類の消毒薬のうち「界面活性剤」について効果のあるものが公表されました。

  • 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(0.1%以上)
  • アルキルグリコシド(0.1%以上)
  • アルキルアミンオキシド(0.05%以上)
  • 塩化ベンザルコニウム0.05%以上)
  • ポリオキシエチレンアルキルエーテル(0.2%以上)

5月28日 新たに2種類の界面活性剤が追加されました

  • 塩化ベンゼトニウム(0.05%以上)
  • 塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(0.01%以上)

経済産業省ポスター

消毒効果が認められた界面活性剤

台所用合成洗剤/住宅家具用洗剤で有効な界面活性剤を含む製品リスト 6月8日版

※安全上の注意点※

  • 手指や皮膚(人体)には使用しないこと!
  • スプレーボトルでの噴霧はしないこと!

人体や空間全体には使用できません。それぞれの洗剤の使用方法を守りましょう。

環境清掃(ドアノブや蛇口など)や物品の消毒に限られています。

ただし、布・木・壁・家具・塗装表面などに使えない場合があります。プラスチック製品(マウス・キーボード・照明スイッチ・リモコン・便座&蓋など)は劣化や変質する可能性があるので、必ず水拭きが必要です。

次亜塩素酸水の消毒効果

有効塩素濃度とpHのグラフ

出典:微酸性電解水の特長|微酸性電解水とは|鳥繁産業オンラインショップ|<公式>お菓子屋さんの除菌・消臭隊
 次亜塩素酸水の殺菌成分は「次亜塩素酸:HOCl=HClO」で、低い塩素濃度で高い殺菌力を持っています。

次亜塩素酸ナトリウムを希釈した水溶液は「次亜塩素酸イオン」が多くHCOlが少ないので、高濃度の塩素濃度で使用しなければ殺菌できません。 

新型コロナウィルスに対する消毒効果は、経済産業省とNITEによる検証評価を行っているところです。結果の公表をお待ちください。

食品添加物(殺菌料)

 次亜塩素酸水は学術用語ではなく、H14(2002)年に食品添加物(殺菌料)として認可・指定された際に「酸性電解水」に替わる物質名として国が命名したものです。

次亜塩素酸ナトリウムそのものや希釈液には使ってはいけない名称です。

  • 強酸性次亜塩素酸水(2002年6月)
  • 弱酸性次亜塩素酸水(2012年4月)
  • 微酸性次亜塩素酸水(2002年6月)

この3種類と「電解次亜水」だけが「次亜塩素酸水」と呼べるものです。

次亜塩素酸ナトリウムを希釈したものと同等のもの

・電解次亜水(1999年6月)

JIS B 8701において新たに規定されたもの

  • 次亜塩素酸水(食品添加物)
  • 電解次亜水

*このJIS規格は、農業用、医療用の生成器には適用されません 

3つの次亜塩素酸水と電解次亜水を比較した表

出典:「機能水とは」一般財団法人機能水研究振興財団

 http://www.fwf.or.jp/kinousui.html

医療用は「強酸性次亜塩素酸水(強酸性電解水)」の生成器のみ

 家庭用に販売されている生成器は、そもそも医療用として認可されたものではありません。

H8(1996)年 医療機器認可:手指の殺菌洗浄用途

H9(1997)年 医療機器認可:軟性内視鏡用洗浄消毒器 

 「強酸性電解水生成装置基準」 H17(2005)年厚生労働省告示第112号 別表の711 

規格と材質、メンテナンス等管理規定に合致した生成器を使用しなければ、「医療用」という名称を使うことはできません。

「医療用の次亜塩素酸水」は存在しません!!

 医療用の手洗いや器具消毒用として認可されているのは、電解水を生成する装置(機械)です。次亜塩素酸水そのものは、医療用として認可されているものではありません。「次亜塩素酸水」を「医療用」と謳って販売することはできないのです。 

特定農薬(特定防除資材) 

 次亜塩素酸水は、安全なので登録義務のない特定防除剤としてH26(2014)年に指定されています。

特定農薬(特定防除資材)として指定された資材(天敵を除く。)の留意事項について(平成26年3月28日):農林水産省

 次亜塩素酸水(塩酸または塩化カリウム水溶液を電気分解して得られるものに限る)

特定農薬に指定された「次亜塩素酸水」も、生成器で電気分解されたもののみであり、次亜塩素酸ナトリウムの希釈液はまったく関係ありません。

次亜塩素酸ナトリウムの危険性

 次亜塩素酸ナトリウムに希塩酸などを加えたものを製造・販売する業者は、次亜塩素酸ナトリウムも希塩酸も、それぞれが食品添加物として認可されている(濃度規制あり)ので「安全」だと主張しています。(自己主張)

次亜塩素酸ナトリウムはアルカリ性で人体に有害なので、酸(希塩酸、クエン酸など)を混合して中和しているから安全だともいっています。

 しかし、次亜塩素酸ナトリウム液と希塩酸等を「混合」することによって新たな「化学反応」が起きると考えられるため、「食品添加物としては認められていない」というのが厚生労働省の見解です。H16(204)年、この混合液の販売は禁止されています。

「次亜塩素酸ナトリウムに酸を混和して使用することについて」

食案基発第0825001号 H16(2004)年8月25日

厚生労働省医薬食品局 食品安全部基準審査課長 通達

花王のPDF
出典:「医療現場における次亜塩素酸ナトリウムの特性と有用性」花王

次亜塩素酸ナトリウムと酸性物質の混合は禁忌であると明記されています。

 また、「食品添加物」としての認可を受けていないため「濃度規制」されていないので、200ppm以上の危険な高濃度に希釈した製品や、有効濃度を下回る消毒効果のない製品まで、様々なものが販売されています。

次亜塩素酸ナトリウムは、人体や環境に有害であり広範囲に使用することは禁じられています。使用方法も、消毒としては「浸漬」(つけおき)が基本であり、環境表面に対しては清拭後に必ず水拭きを追加して次亜塩素酸ナトリウムの成分が残留しないよう注意しなければなりません。希釈したものであっても、スプレー容器に移し替えることも禁止されています。

それを超音波加湿器で噴霧することの安全性は、どこが保証してくれるのでしょう。

 ※加熱式加湿器には絶対に使用しないこと!

「次亜塩素酸水」に関するお知らせ | 電解水の正しい情報 | 日本電解水協会 

mekkingishi-nurse.hatenablog.jp

電解次亜水

厚生労働省:次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの同類性に関する資料

出典:「次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの同類性に関する資料」厚生労働省

*この中で「HClO=HOCl」と明記されています

  電解次亜水は、次亜塩素酸の含有量は少ないが弱アルカリ性の次亜塩素酸イオンを主成分としているpH7.5以上で有効塩素濃度30ppm以上の電解水です。

H11(1999)年「食品衛生法に基づき定められている次亜塩素酸ナトリウムを希釈したものと同等である」という通知が出されています。「いわゆる電解水」が「電解次亜水」のことです。

  「いわゆる電解水の取扱いについて」

http://www.fwf.or.jp/data_files/view/107/mode:inline 

 衛化第31号 H11(1999)年6月25日 

厚生省生活衛生局食品化学課長 通達

まとめ

  • 「次亜塩素酸水」=酸性電解水(3種類のみ)
  • 「医療機器」として認可されているのは、手洗いや内視鏡洗浄消毒に使用する生成器本体のみ
  • 「次亜塩素酸水」そのものは「医療用」として認可されていない
  • 「次亜塩素酸水」は、「食品添加物(殺菌料)」として認可されている*濃度規制がある
  • 次亜塩素酸ナトリウムに酸を混合した液体およびその希釈液は次亜塩素酸水ではない(次亜塩素酸水溶液)

ポイント

  • 「医療用」の次亜塩素酸水は存在しない
  • 次亜塩素酸ナトリウムを希釈した液体は次亜塩素酸水ではない(危険!)
  • 家庭用製品で「厚生労働省が効果を認めた」という事実はまだない(生成器の構造や材質と生成物の規制がある)

次亜塩素酸水3種類とその他の類似殺菌剤成分や性質の比較表

出典:「微酸性電解水と他の殺菌目的水との比較」株式会社ホクエツ

 http://www.hokuty.co.jp/jun23-06.html

*pH順に並べ替え等一部改変(厚生労働省では電解次亜水の塩素濃度を30ppm以上としています)

<その他の参考文献>

 「総説 次亜塩素酸水生成装置の標準化:JIS B8701の制定」