中材業務【洗浄と滅菌】安全な再生処理と感染制御

歯科医療も含めて、診療に使用した医療器具を安全に再使用するための再生処理と感染制御についてわかりやすく解説しています。

ISO 13485規格とQMS省令

 中央材料滅菌室での日々の作業は、明確な業務基準や手順がないままに行われている施設が多いのは、あなたもご存じの通りです。

  • 人によってやり方や考え方が違う
  • いつの間にかやり方が微妙に変わってしまう
  • 本当にこれでいいのか不安だ

こんな風に感じたことはありませんか?

このような不安や業務の質の劣化、個人差によるバラつきをなくすために有効な組織運営の方法が「ISO 13485」なのです。

そうはいっても「なんだか難しくて訳がわからない」という本音を抱いていませんか?

実は、私もその一人でした。

ISOは国際標準化機構

ISOは、スイスのジュネーブに本部を置く非鋭利団体です。

International Organization Standardization

世界165ヵ国(2014年現在)が参加しています。

  • 日本:日本標準調査会(JISC)
  • 米国:アメリカ規格協会(ANSI)
  • 英国:英国規格協会(BSI)
  • フランス:フランス規格協会(AFNOR)
  • ドイツ:ドイツ規格協会(DIN)

その他、各国の代表団体が参加しています。

ISO規格(国際規格)

「ISO」は国際標準化機構のことをいいますが、私たちが「ISO」という時には「ISO規格」の意味で使う場合が多いでしょう。

「ISO規格」は、「世界中で同じ品質の物やサービスを提供できるようにしよう」という目的の国際的な基準です。

国際規格の制定と5年毎の改訂は、全参加国の投票で決まります。

主なISO規格には、次のような国際規格があります。

【分野別】 

  • 品質マネジメントシステム(ISO 9001):品質保証と品質管理(製品管理)
  • 環境マネジメントシステム(ISO 14001)
  • 情報セキュリティマネジメントシステム(ISO 27001)
  • 苦情対応マネジメントシステム(ISO 10002)
  • 事業継続マネジメントシステム(ISO 22301)
  • エネルギーマネジメントシステム(ISO 50001)

【産業別】

  • 食品安全マネジメントシステム(ISO 22000)
  • IT(情報)サービスマネジメントシステム(ISO 20000)
  • 道路交通安全マネジメントシステム(ISO 39001)
  • 非公式教育・訓練における学習サービスマネジメントシステム(ISO 29990)

興味深い規格がたくさんあります。

ここではISO規格の「品質マネジメントシステム」について説明していきます。

ISOと各国の基準・ガイドラインとの関係

再使用可能な医療機器の再生処理に関する法令・基準やガイドライン等は、日本とヨーロッパではISO 13485に準拠しています。

  • 日本:QMS省令、滅菌バリデーション基準、医療現場の滅菌保証のガイドライン
  • ヨーロッパ連合:EN規格(イギリスBSI-EN、ドイツDIN-EN、フランスNF-EN)

国際規格ISOは多くの参加国の基準やガイドラインと整合性を図っており、ISO規格が遵守されると、自国の基準や法律も満たされるものとして位置づけられています。

ですから、各国独自のガイドラインや基準に、国による優劣の差はありません。

それぞれの国で、現実的に運用可能な工夫がなされていますが、目的と概念は共通しています。

医療機器の再生処理を行うことにおいて、国民の命と健康を守るという目的で医療の安全性が厳しく求められているのはどの国でも同じです。

日本では医科と歯科が別々に発展していますが、「医療器具の再生処理」そのものに差はありません。

歯科の医療器具には独自の特徴があり、個別に注意すべきことがあります。

医科の医療器具でも、内視鏡技術の発達で様々な内視鏡に特化した管理手順が整備されており、一般的な鋼製小物とは別の管理方法があります。

基本的なことはすべて同じですが、医療器具の種類や特性に応じた処理工程があります。

医科と歯科を区別するのではなく、医療器具には様々な特性があるのだという認識と位置づけが必要です。

しかしながら、それらを踏まえた上で、歯科領域に特化したまとめ方も、実際に業務を行う多様な現場レベルでは必要であり、有効なことだと考えます。

「セクター規格」はISO 9001を適用する際の要求事項

ISO規格のピクトグラム一覧

画像出典:ISOの基礎知識 | ISO認証 | 日本品質保証機構(JQA)


「ISO 9001」は、どんな業界でも使用できる普遍的なマネジメントシステムの規格です。

この「ISO 9001」をベースに、それぞれの業界独自の要素について「追加要求事項」を規定したものを「セクター規格」と呼びます。

次のような「セクター規格」(国際規格)があります。

  • IATF 16949(自動車)
  • TL 9000(電気通信機器)
  • ISO 13485(医療機器、体外診断用医薬品)
  • JIS Q 9100(航空宇宙)*米国AS9100、欧州EN9100と同等の技術。日本工業規格とは違います

 

日本のQMS省令は、このセクター規格ISO 13485に基づいて作られています。

品質マネジメントシステム(QMS)

製品の開発設計・製造・使用の過程を管理する品質マネジメントシステムISO 9001規格の「マネジメントシステム」は、個人ではなく「組織」で運用するものです。

「組織」は2人以上の集まりのことをいいます。

会社、地方自治体、学校、病院などの組織の人々が、同じ目標に向かって動くためには「管理(マネジメント)」が不可欠です。

組織としての「ルール」を作り、それを全員が守って組織を運営するのです。

下図は、電子線照射装置会社の品質保証体制のフロー図です。

全体と各部分の関係がわかりやすくまとまっているので、参考になると思います。

使用済み医療器具の再生処理では、「顧客」を臨床で滅菌物を使用する医療従事者と患者さんに置き換えます。

電子線照射装置の販売・受託加工|株式会社アイ・エレクトロンビームの品質保証体制フロー図

画像出典:電子線照射装置の販売・受託加工|株式会社アイ・エレクトロンビームhttp://www.elebeam.com/QC.html *保護されていない通信です

一方、アメリカのマネジメントシステムは「21 CFR 820」に規定されており、QMSではなく「QSR:Quality System Regulation」(FDA)と呼ばれるものです。

滅菌器のバリデーションは、品質マネジメントシステムの構成要素:製品の管理の一部分です。

ISO 13485(国際規格)と日本のQMS省令

 ISO 13485は「医療機器」のための要求事項を備えた規格であり、日本のQMS省令にも組み込まれています。

ISO 13485を効果的に運用すると、次のような成果が得られます。

  1. 目標達成に向けたPDCAサイクルの確立
  2. 法令遵守(コンプライアンス)の推進
  3. 「仕事の見える化」による業務の標準化
  4. 教育支援の充実:教育訓練の体系的実施と個人の力量に合わせた人材育成
  5. 業務改善の継続
  6. リスクマネジメント
  7. 継続的な改善による企業価値の向上
  8. 品質保証による社会的信頼や顧客満足の向上

 では実際に、どのように行うのでしょうか。

  1. 文書化=マニュアル化で、ルール・手順を作り、新人でもマニュアル通りに行えば同じ質の作業ができる
  2. 『PDCA』サイクルを回し続ける仕組みを作り運用する
  3. 実施・達成できていることを記録して証明する

簡単に言うと、上記の3点になります。

  • マニュアルを整備する
  • マニュアルに沿って計画的に実施する
  • 実施課程と結果を記録・評価(証明)し改善する

ISO 13485は、これらをずっと連続(継続)して行うために必要なことを要求しています。

「業務の見える化」には、手順を決めて文書で規定することが不可欠です。

書かれた文書は、自分たちの行動を評価する基準となり、外部の人々にも提示して監査を受ける資料にもなります。

PDCAサイクルは、様々な分野で活用されている業務改善と問題解決の仕組みです。

P:Plan(計画)

D:Do(実施)

C:Check(監視・測定・分析)

A:Action(改善)

きちんと計画通りにマニュアルを実行し、実施した過程と結果を監視・測定・分析し記録ます。

問題を発見し、原因を究明して改善策・予防策を立てる。

その改善策・予防策を計画的に実行して結果を記録・評価する。

その繰り返しが『PDCA』サイクルです。

本来は製造業や製造販売(設置)業者向けのマネジメントシステム(管理方法)ですが、医療施設内で行われる医療器具の再生処理にも当てはめて考えます。

それは、患者さんに使用する再生医療器具の安全性を確保することが中材の使命であり、ISO 13485を遵守することでその目的が達成されるからです。

ISO規格を、その内容を改編することなく日本語に翻訳したものが「QMS省令」です。

再生医療機器の安全性・有効性・品質を確保するために、組織のルールや手順を作って守るための要求事項です。

実施に当たって経営者と各部署や作業責任者の責任と権限を体系化し、組織を適切に指揮・管理する「仕組み」と「リスク管理」を強化したものが、ISO 13485でありQMS省令なのです。 

滅菌バリデーション基準

最初に確認しておきたいことは、「滅菌バリデーション基準」は単純に「滅菌器のバリデーション」のみを指しているのではなく、品質マネジメントシステムを包括しています。

 医療施設やアウトソーシング(外部委託)業者が医療機器の再生処理を行う場合には、組織としての運営方法を明確に定めることが必要です。

高品質で安全な滅菌物を常に作り続けることが目的です。

日本ではQMS省令を遵守することになりますが、医療機器の再生処理にポイントを絞って、医療現場が何をすべきかをよりコンパクトにまとめたものが厚生労働省の「滅菌バリデーション基準」です。

これまでは、現場の作業マニュアルや手順などの細かい内容の一部分だけが注目されていましたが、全体像は組織としての運営基盤を整えることにあります。

  1. 病院における中材業務の位置づけと責任者の役割を明確にする
  2. 運営基準の作成
  3. マニュアル・手順の作成
  4. 年度ごとの運営計画を立てて業務を行い評価する

4月の新年度から、あなたの施設でどのように取り組むのか、まずは1年間の計画を立ててみましょう。

作業に当たるみんなで分担し、マニュアルを整備していきます。

そのためには、具体的な役割と作業分担、承認者と承認方法を決めましょう。

  • 必要なマニュアル・手順の種類
  • 新しいマニュアル・手順の作成
  • 既成のマニュアル・手順の見直し
  • 完成したマニュアル・手順と見直し結果の承認

これと並行して、洗浄・滅菌・消毒の正しい理論と技術についての学習(教育)も、計画的に進めていかなければなりません。

更に、中材の管理者であるあなたは、直属の上司や経営者との話し合いも行ってゆくことになります。

新 QMS 省令 逐条解説

ISO13485:2016-QMS 省令対比表

滅菌バリデーション基準|厚生労働省

<ISO 13485の構成>

まえがき

序文

  • 0.1 一般
  • 0.2 概念の明確化
  • 0.3 プロセスアプローチ
  • 0.4 ISO 9001との関係
  • 0.5 他のマネジメントシステムとの両立性

1.適用範囲

2.引用規格

3.用語および定義

4.品質マネジメント

  • 4.1 一般要求事項
  • 4.2 文書化に関する要求事項

5.経営者の責任

  • 5.1 経営者のコミットメント
  • 5.2 顧客重視
  • 5.3 品質方針
  • 5.4 計画
  • 5.5 責任、権限およびコミュニケーション
  • 5.6 マネジメントレビュー

6.資源の運用管理

  • 6.1 資源の提供
  • 6.2 人的資源
  • 6.3 インフラストラクチャ
  • 6.4 作業環境および汚染管理

7.製品実現

  • 7.1 製品実現の管理
  • 7.2 顧客関連のプロセス
  • 7.3 設計・開発
  • 7.4 購買
  • 7.5 製造およびサービス提供
  • 7.6 監視器機および測定機器の管理

8.測定、分析および改善

  • 8.1 一般
  • 8.2 監視および測定
  • 8.3 不適合製品の管理
  • 8.4 データの分析
  • 8.5 改善

附属書A(参考) ISO 13485:2003とISO 13485:2016の内容の比較

附属書B(参考) ISO 13485:2016とISO 9001:2015との関係

<ISO 9001の構成>

まえがき

序文

  • 0.1 一般
  • 0.2 品質マネジメントの原則
  • 0.3 プロセスアプローチ
  • 0.4 他のマネジメントシステム規格との関係

1.適用範囲

2.引用規格

3.用語および定義

4.組織の状況

  • 4.1 組織およびその状況の理解
  • 4.2 利害関係のニーズおよび気体の理解
  • 4.3 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定
  • 4.4 品質マネジメントシステムおよびそのプロセス

5.リーダーシップ

  • 5.1 リーダーシップおよびコミットメント
  • 5.2 方針
  • 5.3 組織の役割、責任および権限

6.計画

  • 6.1 ろすくおよび機会への取り組み
  • 6.2 品質目標およびそれを達成するための計画策定
  • 6.3 変更の計画

7.支援

  • 7.1 資源
  • 7.2 力量
  • 7.3 認識
  • 7.4 コミュニケーション
  • 7.5 文書化した情報

8.運用

  • 8.1 運用の計画および管理
  • 8.2 製品およびサービスに関する要求事項
  • 8.3 製品およびサービスの設計・開発
  • 8.4 外部から提供されるプロセス、製品およびサービスの管理
  • 8.5 製造およびサービス提供
  • 8.6 製品およびサービスのリリース
  • 8.7 不適合なアウトプットの管理

9.パフォーマンス評価

  • 9.1 監視・測定・分析および評価
  • 9.2 内部監査
  • 9.3 マネジメントレビュー

10.改善

  • 10.1 一般
  • 10.2 不適合および是正処置
  • 10.3 継続的改善

附属書A(参考) 新たな構造、用語および概念の明確化

附属書B(参考) ISO/TC 176によって作成された品質マネジメントシステムおよび品質マネジメントシステムの他の規格類