<2019年9月更新>
感染防止対策の基本として「標準予防策」(スタンダードプリコーション)が常識となっています。
そこで、歯科医院では、具体的に何をどこまで実施したらよいのかについて提案します。
医科での対策は詳しい情報がたくさんありますが、歯科医院にそのまますべて適応できるものではありません。
「隔離予防策のためのCDCガイドライン1996年」は「医療現場における感染性微生物の伝播の予防2007年」に改訂されています。
厚生労働省の指導内容に疑問を持っている歯科医師、指導に従っていればよいと考える歯科医師、日本の指導内容では不十分なのでもっと高度な対策を行っている歯科医師、さまざまな立場の歯科医院があります。
あなたの歯科医院で、標準予防策として何を採用すべきかを考えてみましょう。
標準予防策の原則
標準予防策の原則は「患者を感染症の有無で区別しない」ことです。
スタンダードプリコーションが提唱される以前は、ユニバーサルプリコーション(普遍的予防策)でした。
特定の感染症の「血液」だけを重要視した対策から、「血液以外の体液(汗を除く)も危険である」という考えに移行し、現在は「危険な感染症の患者を特定することは不可能である」という認識に変っています。
- 自分が感染症であることをまだ知らないでいる患者さんがいる
- 感染症であることを隠す患者さんがいる
- 全員血液検査をして結果が陰性でもウィンドウ期がある
- 未知の病原性微生物の可能性がある
このような理由から、危険性を判断できないので、患者全員を平等に感染対策の対象とするものです。
歯科で、患者全員の血液検査を行うことも不可能です。
ウィンドウ期は、感染力があるのに血液検査で陽性反応が出ない期間のことをいいます。
「調べて安心」と思って油断していると、実は危険性が高いという現実が日常的に起きているのです。
科学の進歩で、エイズやエボラ出血熱などの新しい感染症が次々と解明されてきました。まだ未知の感染症があるかもしれない(あるはずだ)という考え方です。
- 感染症がわかっている患者だけを隔離して診療する
- 感染症がわかっている患者だけを厳重にバリアして診療する
このような区別をする歯科の診療体制は、非常に危険です。
普通の患者の中に感染症の患者が必ず含まれており、安心して「油断」している日常診療にこそ、大きな危険があるのです。
また、感染源となる汚染物質は血液だけではありません。
汗以外の体液や排泄物も同じレベルで対象となります。
見た目で血液の付着を判断して、洗浄方法が違ったり滅菌が不要と判断することはありません。
歯科医院に必要な10の標準予防策⑩
歯科医院で対策を行うポイントは、次の10項目です。
これは医科と共通であり、「感染経路別予防策」「感受性宿主対策」「感染源対策」の3つと「安全な手技」「薬品の適切な管理」「針刺防止」「個人衛生」が含まれています。
- 手指衛生:感染源
- 個人防護具の使用:感染経路(直接接触・飛沫感染)
- リネン・ユニフォームの取り扱い:感染源
- 医療器具の洗浄・滅菌・消毒:感染源
- 無菌操作による手術と治療:安全な手技
- 薬品等の安全な使用
- スタッフの安全:感受性宿主・針刺防止
- 咳エチケット:感染経路(飛沫感染)
- 環境清掃と整理整頓・一般ゴミの処理:感染源
- 医療廃棄物の処理:感染源
1.手指衛生
「手指衛生」は感染防止の重要な基本事項です。
汚染された手指で、環境や器具を汚染しないために、感染性微生物を手から取り除いたり消毒する「感染源」対策と「感受性宿主」の防護対策です。
正しい方法をしっかりと身に付けて習慣にしましょう。
- 手洗い
- 手指消毒
- スキンケア
①手洗い
基本は流水と石けんでの手洗いです。
手を洗うタイミングは、次のような場面です。
- 診療の前後
- グローブの着脱
- 診療室を出るとき(休憩・外出・退勤)
- ユニフォームを脱いだあと
- 素手でマスクに触ったあと
- ユニットのメンテナンス・清掃や環境清掃のあと
- 清潔な器具を準備する前
- 器具の片づけ・洗浄・消毒を行ったあと
- 咳をしたあと
- 飲食の前
手洗いにブラシは必要ありません。
ブラシには洗浄効果がそれほどなく、逆に皮膚を傷つけて感染のリスクを高める可能性が高いため、使用しなくなっています。
洗ったあとは、ペーパータオルで十分に水分を取り除き(こすらない)、乾燥させます。
手洗いには、水が基本です。
お湯は、皮膚のバリア機能に重要な役割を果たす皮脂膜を洗い流してしまうため、乾燥して傷つきやすい皮膚にさせてしまうので手洗いには適しません。
女性の洗顔も、水か皮膚温よりも低い微温湯がよいとされています。
②手指消毒
速乾性(アルコール性)擦り込み式手指消毒薬を使用します。
1回の使用量は通常3mℓといわれていますが、メーカーの使用手順に従います。
ポンプ式の場合は、ポンプを最後まで十分に押し切るようにしましょう。
途中で押すのをやめると、必要量が噴霧されません。
メーカーによっては「3プッシュ」などと指定する場合もあるので、使用方法を確認しましょう。
目に見える汚れがない場合は、手洗いを省略して手指消毒だけでもよいとされています。
ただし、無菌操作の手術の場合は流水と石けんによる手洗いの後に手指消毒を行います。
③スキンケア
手の皮膚が健康な状態を保っていることが感染防止に重要です。
健康な皮膚のバリア機能を維持しましょう。
- 手荒れの防止
- 保湿
- アトピー性皮膚炎などの治療
もし手や指に傷が出来てしまった場合は、保護剤で密封しましょう。
耐水性の絆創膏、フィルム材などを利用します。
アレルギーや手荒れの原因となるグローブのパウダーは、世界的に使用が禁止されています。
グローブには、プラスチック類、ラテックス、ニトリルなどの素材がありますが、手荒れを起こす製品は使わないようにしましょう。
ラテックス製品は、患者さんがアレルギーを起こす危険があるので、医科ではまったく使用されていません。
ニトリルグローブでも、フィット性がよく濡れても滑りにくい製品が安価に購入できるようになっています。
また、ニトリルグローブはアレルギーを起こしにくいといわれていますが、加硫促進剤などの影響で手荒れを起こすことがあります。
実際に各製品のサンプルで確かめる必要があります。
スタッフの状況に合ったグローブを使用できるよう、歯科医院が準備しましょう。
2.個人防護具の使用
「感染経路別対策」の中の、直接接触と飛沫感染を避ける対策です。
- サージカルマスク
- グローブ
- ゴーグル(またはフェイスシールド)
歯科診療において、これら3つの防護具は必須です。
①サージカルマスク
マスクは飛沫感染を防ぐために必要です。サージカルマスクを正しく装着すれば、飛沫感染はほぼ100%防止できるとされています。
診療時には、必ず装着しましょう。
マスクは呼吸のフィルターなので、正しく装着しなければ防護具としての役割を果たせません。鼻を出すのはもってのほかです。
プリーツがあるものは、顔にフィットするようプリーツを十分開いて装着します。
顔の凹凸の隙間をなくすためにノーズピースが付いています。ノーズピースも顔に合わせて形を整えます。
マスク表面は不潔区域なので素手で触らないように注意しましょう。
捨てる時に外すまでは顎にずらしたりしてはいけません。
基本は1患者の治療が終わるごとに、外して捨てます。
外したマスクをポケットに入れたり、腕に付ける等して再使用してはいけません。
*マスクの裏表*
一般的にヒダ(プリーツ)が一方向に付いているマスクは、表のヒダが下向きになっています。
耳かけのゴムの接着位置は、肌に当たる裏側と肌に当たらない表側があり、メーカーによって違うので裏表の判断基準にはなりません。
(フィルターとしての材質と構造上の問題がなければ裏表の使い分けは必要ないかもしれません)
箱入りの場合は、手で触って取り出す面(上になっている側)が、表だと考えてよいでしょう。
もちろん、ノーズピースが上になります。
たまに手術に立ち会う業者さんにマスクを渡すと、裏返しや上下逆に装着する人が少なからずいるものです。
②グローブ
原則は1患者の診療に1双です。正しい装着の仕方と外し方があります。
使用方法や交換のタイミングを間違えると、自分もスタッフにも危険が及ぶので注意が必要です。
診療の途中でグローブをはき替える場合には、必ず両手を外して手指消毒を行い、両手とも新しいグローブを使用します。
歯科特有の伝統的な悪習慣に、「片手グローブ」というグローブのはき戻しがあります。
グローブの節約、あるいは手洗いや手指消毒の手間を惜しんでのことだと思いますが、これは絶対にやめていただきたい危険な行為です。
グローブを脱いだ手と、脱いだグローブの内側が確実に汚染されます。
どちらも汚染しないように脱ぎはきすることは不可能です。
グローブは、使用直前に箱から1枚ずつ取り出して片方ずつ装着します。
ポケットに何枚か入れて持ち歩いたり、キャビネットなどの上に取り出して置くのはやめましょう。
*一人で歯式記録やポケット測定を行う場合*
利き手でペンを持ち反対の手でミラーを持つ場合には、利き手にグローブをはめる必要はありません。
ポケット測定の場合は、利き手にグローブをはかずにポケットプローベを持ち、自分の手を汚染しないように行って、その都度ペンに持ち替えます。
どうしても利き手が口唇や粘膜に触れてしまう場合は、利き手にもグローブが必要です。
この場合は利き手のグローブは汚染されているので、アシストに記録を頼むか、ペンを持つたびにグローブをはき替える必要があります。
③ゴーグル
特に目の粘膜は感染しやすいので、歯科においてはゴーグル等の使用が重要です。
ところが、歯科医療従事者は眼に関しては無防備なのが現実です。
視力矯正用のメガネは、上下左右をガードできないので、防護具の代用にはなりません。
アレルギー対応の眼鏡の場合は、隙間のないようカバーが付いているので有効です。
拡大鏡を使用する場合は、フェイスシールドなどを併用しましょう。
新たに購入時は、ぜひゴーグル付きの物を選んでください。
メガネを使用する方は、オーバーグラスタイプのゴーグルを付けましょう。
拡大鏡のデザインによっては、フェイスシールドに切れ目を入れるなどの工夫が必要です。
シールドが反射して見にくくなる場合もあるので、使用する製品の選択には注意が必要です。
洗浄・滅菌・消毒に必要な防護具
汚染された器材の再生処理は、感染の危険を伴う作業です。
適切な防護具を使用して、刺傷・切傷などの事故が起きないよう安全な操作手順で行いましょう。
- 厚手で長さのあるニトリルグローブ:仕分け、分解、洗浄、すすぎ
- ニトリルグローブ:乾燥、組み立て、点検、メンテナンス、セット組み、包装
- 帽子(キャップ):仕分け、分解、洗浄、すすぎ
- 使い捨てビニールエプロン:仕分け、分解、洗浄、すすぎ
- ゴーグル:仕分け、分解、洗浄、すすぎ
- サージカルマスク:すべての作業工程
- 耐熱性グローブ:高圧蒸気滅菌器の操作で必要な場合(軍手で代用可)
使い捨てではないエプロンは、洗濯・消毒が難しく、着脱の際に汚染された表面に触れるので危険です。
洗浄用の厚手のグローブを、複数のスタッフで使い回しするのはやめましょう。防護具は、基本的に各個人専用とします。
台所用のゴム手袋(写真中央)は、耐貫通性がまったくないため「防護」の役割を果たしません。ゴワゴワして操作性も悪く、医療器具の取り扱いには適しません。
厚手でロングサイズ(40cm)のニトリルグローブは、耐貫通性と指先の細かな操作性に富んだ優秀な防護具です。
とても丈夫なので穴が開く前に定期的に交換しており、ゴム手袋を毎日のように交換していた時よりもコストが削減できました。
術者の防護具
- サージカルマスク
- ゴーグル/フェイスシールド
- 帽子(キャップ)
- 滅菌グローブ
- 滅菌ガウン
サンダルの禁止/シューズカバーの使用
診療室や手術室、洗浄ブースでは、基本的にサンダルは禁止です。
足の甲に器具が落ちた場合、簡単にケガをしてしまうので不適当です。
足の甲全体を覆う耐貫通性のある素材の靴が基本となります。
かかとのないサボタイプ(クロックスなど)でもよいですが、デザインに通気孔のない医療用のものを選びましょう。
手術室ではき替えるサンダルは、洗浄・消毒・保管の管理が難しいことと、足の甲をカバーできないので危険です。
基本的に靴の履き替えは不要で、必要な場合はシューズカバーを使用します。
3.リネン・ユニフォームの取り扱い
「感染経路別対策」の中で、感染源との間接接触を避ける対策です。
- 患者さんに使用したリネン(タオル・エプロンなど)は必ず消毒する
- ユニフォームは専門業者にクリーニングを依頼し熱水消毒を行う
- 外出時はユニフォームを脱ぐ
- ペーパータオルの使用(またはエアータオル)
患者さんに使用するリネンは、普通に洗濯した場合は最後に次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒します。
80℃の熱水に耐えられる洗濯機があれば、80℃10分間の熱水消毒を行います。
できれば使い捨ての物を使用しましょう。
外国ではバキュームの吸引性能(規格)と形状が違うので、切削時にタオルやエプロンが不要という環境もありますが、日本の現状では無理です。
ユニフォームを自宅に持ち帰って、家族の衣類と共に洗濯するのはどうでしょうか。
家族を感染の危険に曝す可能性がありますが、どの程度危険なのかは実際のところ不明です。(私は気持ち悪いので、絶対に嫌です!)
ユニフォームは最も汚染されるものなので毎日交換が推奨されていますが、現実的には無理な場合がほとんどでしょう。
毎日交換できない場合には、飛沫やエアロゾルが発生する治療の際だけでも、使い捨てのエプロンを使用することが推奨されています。
感染症がわかっている患者さんの場合は、帽子(キャップ)やガウンも着用しますよね?それと同じ状況が普通の診療にも起きているのに、平気ですか?
また、歯科医院のスタッフが、白衣のまま食事に外出する姿を見かけることがありますが、それは絶対に行ってはいけない行為です。
歯科医院を出る時には、必ずユニフォームを着替えてください。
ユニフォームで外出すると外部に汚染を拡散するとともに、戸外の汚染を院内に持ち込むことになります。
手拭き用のタオルの使い回しも厳禁です。
ペーパータオルが推奨されていますが、エアータオルも使用可能です。
4.医療器具の洗浄・滅菌・消毒
「感染源」に直接アプローチする感染対策です。
診療における感染防止で、最も重要なポイントです。
5.無菌操作による手術と治療
「感染性」をなくした医療器具を、汚染しないように正しく取り扱って安全な診療を行います。
- ハンドピースは患者毎に交換し使用後は洗浄・滅菌する
- 滅菌が必要な器具は包装して滅菌し保管する
- 手術では滅菌グローブ、滅菌ガウン、滅菌ドレープを使用する
インプラント手術やフラップ手術などは、医科の手術に準ずる厳密な無菌操作が必要です。(滅菌グローブ、滅菌ガウン、滅菌ドレープなど)
抜歯、歯髄抜去や根管治療、スケーリングなども、本来は無菌操作の対象ですが、歯科においてはほとんど未滅菌のグローブで行われています。
いずれも、使用する器具が滅菌されていることが条件となります。
未滅菌のグローブが感染性微生物で汚染されている可能性は非常に少ないので問題ないでしょう。
「一般歯科診療」において「患者ごとにハンドピースを交換し、使用後は洗浄・滅菌を行う」ことが厚生労働省から厳しく指導されているところです。
「一般歯科診療」とは、口腔外科などの「手術」に限定されていません。
包装して滅菌され安全に保管されている器具やハンドピースを使用しましょう。
医科では「腰椎穿刺等の安全な手技」として、無菌操作や処置時のマスクの着用について書かれていますが、歯科では行わない処置なのでここでは割愛しました。
6.薬品等の安全な使用
医科では「安全な注射手技」となっており、注射薬・注射針・シリンジの使い回しを禁止しています。
歯科においても同じですが、歯科の場合は注射の他にも使い回しで感染の危険が伴う薬剤が日常的に使われています。
根管充填剤などは、歯髄腔に直接挿入せずに清潔な場所に取り分けるか、別のシリンジに入れ替えて使用します。
患者さんのからだや使用中の汚染器具に少しでも触れたものは、使い回し厳禁です。
保険診療上1患者1本または1個という制約が設けられたものもあるので、慎重に取り扱いましょう。
当院では、スポンゼルを滅菌グローブと滅菌したクーパーで切り分け、滅菌した容器に入れて鉗子操作で使用していましたが、それも廃止しました。
1患者に1包装使うととが義務付けられたからです。
添付文書に従って、開封後の保管方法(温度や遮光など)や使用期限を守ります。
まさか、局所麻酔薬カートリッジの残薬を、他の患者さんに使い回してはいませんよね?
7.スタッフの安全
職員の健康を守り、事故を防止する対策は経営者の責任です。
- 健康診断の実施
- 積極的なワクチン接種(B型肝炎ワクチン、インフルエンザワクチン、その他)
- 針刺し事故等の防止対策の徹底と報告体制
- 針刺し事故が起きた場合の対応の整備と記録
- 計画的な年1~2回の研修とアンケートなどで研修の成果を評価し計画に反映する
- インフルエンザなどの感染症の発生状況を把握する
- スタッフが感染症を発症した場合の感染拡大の防止措置(出勤停止など)
8.咳エチケット/呼吸器衛生
スタッフを守り、患者相互の感染も防止する飛沫感染を防止するアプローチです。
- スタッフ、患者さん、付き添い者の教育
- 教育のためのポスター掲示
- 咳をするときはティシュペーパーなどで覆う
- 使ったティシュペーパーはゴミ箱へ捨てる
- 咳をしたあとの手指衛生(手洗い、手指消毒)
- 待合室では咳をしている人にマスクの着用を促す
- 可能であれば1m以上離れて座る
下記「飛沫感染予防策」参照。
9.環境清掃と整理整頓
汚染される可能性や汚染のレベルに応じて、適切な清掃を行い必要な時には部分的な消毒を追加します。
整理整頓は、清掃をしやすくするとともに、環境や器具の汚染を防止し、事故防止にも有効です。
ユニットチェアのラッピングは、運用を間違えると汚染を拡大する場合があるので、具体的なマニュアルを作成して守られているかを定期的にチェックする必要があります。
ラッピングを取り外す際に自分が汚染される危険性が高いので、防護具の使用と廃棄方法を正しく守りましょう。
特に汚染されやすい部分の取り扱いは、マニュアルを定めて使用方法を徹底します。
汚染グローブで触わる部位と、パーツの交換や清掃・消毒方法を決めておきます。
10.医療廃棄物の処理
- 一般廃棄物:市町村の分別・回収に従う(待合室や休憩室、トイレのゴミ)
- 感染性廃棄物(固形物):専用容器、専用ラベル(オレンジ)、処理業者へ依頼
- 非感染性廃棄物:専用容器、専用ラベル(緑)、処理業者へ依頼
- 鋭利な物:専用ラベル(黄色)付きの専用容器
赤いバイオハザードマークは液状のものなので、一般の病院や歯科医院では排出されません。
医療廃棄物は、感染性廃棄物と非感染性廃棄物とに分別し、処理業者に依頼します。
針やメス刃、ワイヤー類、ガラスのアンプルなど鋭利な物は「危険物」として耐貫通性のある専用容器に廃棄します。
手術室が独立した部屋になっている場合は、感染/非感染の区別をせずにすべて感染性廃棄物として処理しなければなりません。(排出場所による区分)
標準予防策に追加するオプション:感染経路別予防策
基本はあくまで標準予防策です。
標準予防策が適切に実施されていれば、ほとんどの感染を防止することができます。
上記の8項目には、感染成立の3要素へのアプローチである感染源対策、感受性宿主対策、感染経路別対策が含まれています。
感染経路別予防策の「患者配置/隔離」は、主に入院施設や老人施設等に求められているものです。
歯科医院では、そこまで厳密に管理する必要はないと考えてよいでしょう。
飛沫感染予防策
飛沫は直径5μm以上のもので、咳やくしゃみ、話している時に口から飛び散る唾液などの粒子です。
咳やくしゃみによっては、3m以上も飛ぶ場合があるので、患者さんへ咳エチケットを勧めるポスターを貼りましょう。
咳をしている患者さんにマスクを着用してもらうには、有料/無料(医院の負担)での対応があります。
ポスター等で、咳をする時には人に向けない、ハンカチやティッシュなどで口を覆う、使ったティッシュはゴミ箱に捨てる、という具体的な行動を説明します。
飛沫は水分を含んでおり必ず床に落ちるので、床に落ちた時点で感染力はなくなります。
飛沫感染は、サージカルマスクの正しい着用でほぼ100%防げます。
待合室などに、患者さん用の手指消毒薬を設置してあると親切ですね。
空気感染予防策
直径5μm未満の小さな飛沫核が空中に長く浮遊し、簡単に広範囲に拡散します。
空気感染で問題となる疾患は次の3つです。
- 結核
- 麻疹(ましん)
- 水痘(みずぼうそう)
歯科医院に歩いて通院できる患者さんが、その他の重篤な感染症にかかっている可能性は一般的に低いと考えます。
麻疹や水痘は、発疹がある場合に問診で確認します。
「発疹が出ている患者さんは受付にお申し出ください」という掲示が必要です。
疑わしい、あるいは罹患していることが確実な場合は、後日の予約を取ってお帰りいただくようにしましょう。
結核の日本での発症は80歳以上の高齢者が4割以上を占めているので、高齢者が咳をしている場合は特に注意しましょう。
- 痰の絡む咳が2週間以上続いている
- 微熱やからだのだるさが2週間以上続いている
診療前の体調確認で疑わしい場合には、内科や呼吸器科の受診を勧めてお帰りいただくことも考えてよいと思います。
発疹と同様に、「咳の出ている方は受付にお申し出ください」という掲示も有効です。
参考▶公益社団法人 結核予防会 結核研究所 疫学センター「結核の統計」(全国地図)
http://www.jata.or.jp/rit/ekigaku/toukei/map/rikan/ *保護されていない通信です
*手術スペースの工夫*
歯科医院には、独立した手術室がない場合があります。
そのような時には、診療室の一番奥にあるユニットチェアを使用して、人の動きを制限します。
可能であれば、パーテーションなどの工夫もしましょう。
あるいは、手術の時間は他の予約を一時的に制限するなどの方法もあります。
ルーティンに手術があれば、曜日と時間を手術専用に割り当てることも可能です。
接触感染予防策
接触感染には、次の2つがあります。
- 直接接触感染
- 間接接触感染
直接接触感染は、ほとんどが手を介して起こります。これは、手指衛生で十分防げるものです。
間接接触感染は、汚染器具や汚染された環境表面で起こります。
汚染器具の取り扱い(片付け)の正しい方法と個人防護具の使用で十分防げます。
環境表面の汚染は、誤ったグローブの使用や、手洗い・手指消毒が不十分な場合に起こるので、標準予防策が正しく実施されていれば、十分防げるものです。
子ども用のおもちゃが汚染されていると、感染の原因になることがあります。
小さな子供は手で触ったり口をつけることが多いので、洗える材質・形状のものを使用しましょう。
ぬいぐるみなどの布や毛糸の製品は、置かない方がよいでしょう。
感染症のスクリーニング/トリアージの方法
歯科医院に来院された患者さんは、できるだけ早く感染症の可能性の有無を判断しましょう。
- 受付時の観察:顔色、発疹、咳
- 体調の確認:「今日の体調はいかがですか?」
- 手術の前はバイタルチェック:体温、血圧、脈拍、酸素飽和度
顔色が赤い場合は、体温を測ります。
観察や測定の結果を歯科医師に報告しましょう。
必要があれば、さらに歯科医師が詳しい問診を行い、場合によっては診療を中止するなどの対応をします。
「熱や咳のある患者さんの診療をお断りする場合があります」
「感染防止対策に、ご理解とご協力をお願いいたします」
という内容のポスターを利用するとよいでしょう。
歯科診療で追加すべき感染予防対策
標準予防策に加えて、歯科診療では以下の感染予防対策も必要です。
- 技工物の感染予防対策
- 画像診断の感染予防策
- 歯科ユニット給排水系の感染予防対策
まとめ
標準予防策の原則は、「患者を区別しない」ことです。
まず、ここをしっかりと頭に入れましょう。特別扱いの患者さんは、存在しません。
歯科医院における標準予防策は、以下の10項目です。
- 手指衛生
- 個人防護具の使用
- リネン・ユニフォームの取り扱い
- 医療器具の洗浄・滅菌・消毒
- 無菌操作による手術と治療
- 薬品等の安全な使用
- スタッフの安全
- 咳エチケット/呼吸器衛生
- 環境清掃と整理整頓
- 医療廃棄物の処理
標準予防策にオプションで追加するとされている「感染経路別防止策」のうち、「飛沫感染」と「接触感染」については、歯科医院の場合、標準予防策の範囲でじゅうぶん対応可能と考えます。
「空気感染」については、患者さんの来院時のスクリーニングで把握するしかありません。もし疑いがあった場合は、診療の延期で対応しましょう。
歯科医院で、病棟や施設のような設備は不可能です。
その他に、歯科オリジナルの感染防止対策が3つあります。
- 技工物の感染予防対策(印象体、補綴物の取り扱い)
- 画像診断の感染予防策(レントゲン撮影)
- 歯科ユニット給排水系の感染予防対策
今回詳しく説明できなかった部分については、補足の記事を追加してゆく予定です。
mekkingishi-nurse.hatenablog.jp
参考文献
隔離予防策のためのCDCガイドライン「医療現場における感染性微生物の伝播の予防2007年」 *保護されていない通信です
http://www.maruishi-pharm.co.jp/med2/files/disinf/support/60/sup.pdf?1483665587