中材業務【洗浄と滅菌】安全な再生処理と感染制御

歯科医療も含めて、診療に使用した医療器具を安全に再使用するための再生処理と感染制御についてわかりやすく解説しています。

洗浄不良はこんなに危険!衝撃の真実

再使用可能な医療器具を安全な器具に再生処理するためには、正しい洗浄が重要です。

「洗っている」という動作は、きちんと「洗えている」という事実とイコールではありません。目に見えない洗い残しが、命を脅かす危険な凶器を作り出すのです。

洗浄不良のまま滅菌すると危険な器具になる!

器具に汚れが残った状態で滅菌しても、安全な器具にはなりません。

滅菌器に入れてスイッチポンだけでは危険なのです。

器具に付着した血液と病原体のイラスト

器具の表面に目に見えない血液汚染が付着しており、その中に病原体が潜んでいます。

器具表面に滅菌で焼き付いた病原体の死骸

微生物の死骸は、ヒトにとっては「異物」です。これが有害物質として障害を起こす原因になります。
運よく微生物が死滅すると、感染力はなくなります。しかし、その死骸は器具表面にこびりついたままとなって有害物質となるのです。エンドトキシンという毒素が特に問題となっています。

この有害物質によって、手術後の非感染性の炎症が起きます。創(きず)や周囲が赤く腫れる、治癒不全(治りが悪い)、原因不明の発熱など。

無菌操作で安全な手術を行っても、汚染器具で体内に有害物質を塗り込んでしまったら、正常な治癒(治る)は望めません。

炎症が収まるまで入院期間が延び、障害が残ってしまうこともあります。

バイオフィルムを形成して病原体が生き残り感染力を持つ

 汚れがこびりついた部分には、使うたびに汚れが塗り重なっていきます。やがて微生物はバイオフィルムを形成し、その中で生き残ることになります。滅菌しても、死ななくなるのです。

そうすると、有害物質と感染源をあわせ持ったおそろしく「危険な器具」ができあがります。洗浄不良と滅菌を繰り返すごとに、どんどん危険が増してゆくのです。

器具の再生処理においては、滅菌だけでなく「洗浄」の質がとても重要なのです。 

 前眼部毒性症候群:TASS

Toxic anterior segment syndrome:TASS

2005年から米国で報告され、日本でも多数発症しています。白内障の手術後に起きる非感染性の前眼部の炎症です。

  • 晩発型:レンズのアルミニウム残留による炎症
  • 急性型(12~48時間):エンドトキシンによる炎症

急性のTASSは、様々な原因が考えられています。

  • 眼内潅流液
  • ヒアルロン酸製剤
  • 手術器具の洗浄不良/滅菌不良
  • 超音波洗浄器の洗浄槽/洗浄液の汚染

それぞれにエンドトキシンが確認されています。すすぎ不良による洗浄液の残留も、炎症の原因になっている可能性があります。

この他にも、エピネフリンの防腐剤、カニューレの再使用、空調の不具合による汚染なども考えられます。

「ASICO 器具の手入れに関する手引書」 *コピペして検索してください

http://www.re-medical.co.jp/wp-content/themes/rem-thema/misc/img/asico_cleaning_1805.pdf 

手術部位感染(SSI)予防のためのAPSIガイドライン

Surgical Site Infection:SSI

使用済み器具の再生処理が、手術後の感染防止に非常に重要であることがガイドラインに明記されています。(2018年6月)

眼科だけでなく、消化器外科、整形外科、産婦人科、歯科においても、器具の洗浄不良/滅菌不良による術後の炎症が問題になっています。

3つのSSIリスク因子

術後感染のリスクは、術前・周術期・術後の3つに分けてリスク分類されています。

その中で洗浄・滅菌がかかわるのは「周術期」のリスクです。

周術期のリスク因子

1.処置関連

  • a.緊急かつ複雑性の高い手術
  • b.高度な創傷分類
  • c.直視下手術

2.設備関連

  • a.不十分な換気
  • b.手術室の出入りの増加
  • c. 器具/装置の不適切/不十分な滅菌

3.患者の準備関連

  • a.既存の感染症
  • b.不十分な皮膚の消毒処理
  • c.術前の除毛
  • d.間違った予防的抗菌薬の選択、投与および/または継続

4.術中のリスク因子

  • a.長い手術時間
  • b.輸血
  • c.無菌法および手術手技
  • d.不十分な手指・前腕消毒および手袋の装着
  • e.低酸素症
  • f.低体温
  • g.不十分な血糖コントロール

「SSI対策 アセスメント&チェックリスト|3M」

「不十分な滅菌」には、当然その前処理としての洗浄も大きく関与しています。

洗浄不良は「非感染性(無菌性)炎症」の原因となり、洗浄不良のまま滅菌を繰り返すと、滅菌後も感染力を持つ危険な手術器具になってしまいます。

まとめ

このように「洗浄」の役割は重要であり、眼に見えない汚れを完璧に洗い落とすことが不可欠です。

「洗う」という行為だけでは、「洗えている」ことにはなりません。本当に洗えてきれいになっているという事実を確認することが大切です。

「洗ったつもり」で人の命は守れません。