中材業務【洗浄と滅菌】安全な再生処理と感染制御

歯科医療も含めて、診療に使用した医療器具を安全に再使用するための再生処理と感染制御についてわかりやすく解説しています。

包装材の性能と必要性【無菌性の維持】

滅菌バッグの再使用は、禁止されています。

その理由は、1回の滅菌工程で素材が劣化し無菌性を維持する「バリア機能」が低下するからです。

増補改訂版 歯科医院の感染管理 常識非常識―Q&Aで学ぶ勘所と実践のヒント―75ページ:図63「滅菌バッグ(紙面)の電子顕微鏡写真」

包装材の種類と用途について、詳しくみていきましょう。

 包装材の必要性

滅菌された器具は、使用する時まで無菌性を保って保管されなければなりません。

そのために、滅菌物と微生物を遮断しておく必要があります。

いくら滅菌しても、未包装で裸のままの器具は空気中の大量の微生物と接触しており、すでに「無菌」ではありません。

未包装の器具は、未滅菌のグローブまたは素手で取り扱われるため、その際にも汚染が拡大するのです。

包装材の条件

包装材は、外界の微生物が滅菌バッグ内に進入できない「バリア機能」が必要です。

同時に、滅菌の際には「滅菌剤が容易に通過できる性能」も求められています。

  • 滅菌剤の透過性に優れている
  • 加圧・減圧の圧力の変化に耐えられる
  • 熱に耐久性がある
  • 微生物のバリア機能が高い(無菌性の維持)
  • 耐水性がある
  • 十分な強度がある
  • ほこりが出にくい
  • 保管や運搬が安全で容易に行える
  • 乾燥しやすい

そして、たくさんの滅菌物に使用するため安価であることも要求されます。

しかし、安かろう悪かろうでは無菌性の維持に支障が出ます。

値段だけで決めずに、製品の性質を確認して選びましょう。

包装材の種類と選択

包装材の選択基準は、次のようなポイントがあります。

  • 滅菌方法
  • 器具の種類
  • 保管方法
  • 保管期間
  • 運搬方法

滅菌物の運用方法に適したものを選択します。

滅菌バッグ:パウチとロール

全面紙製のものから、紙とフィルムでできたものが主流になっています。

フィルム面は、中の器具やインジケータがよく見えるので便利です。

様々なサイズの規格品が豊富です。

ロールで購入し、自分で裁断してシールする使い方もありますが、安価な既製品が多数流通しているので、手作業の方が高価(人件費など)な場合もあります。

また、シールが適切でない場合は、無菌性が破綻しやすいので注意が必要です。

単回使用で再使用してはいけません。

バリア性は高いですが、紙面は濡れると微生物が通過します。

フィルム面は、滅菌剤も蒸気も通しません。

過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌器の場合は、セルロースの滅菌ができないため、高価な専用の滅菌バッグ(ポーチ)を使用しなければなりません。ポリエチレンまたはポリプロピレン製不織布でできています。

  • 大きさは紙面の内部表面積の最大75%までとする(2~3cmの余裕を持たせる)
  • 折り目やシワ、気泡がないこと
  • ラベル貼付は、滅菌前ならフィルム面、滅菌後はどちら側でもよい
  • 書き込み、印字はシールの外側にする

不織布(ラップ材)

単回使用の使い捨て包装材です。再使用できません。綿布の代わりに普及しており、二重包装で使用します。撥水性がありバリア性に優れています。

  • 必要十分な大きさを選ぶ
  • 開きやすいよう端に折返しを作る
  • 滅菌テープでしっかりとめる
  • 貫通しやすいボールペンなどは使用禁止
  • 滅菌テープははがれにくいものを使用する
  • 不織布に直接マジックで書きこみしない(滅菌テープに記載)
  • きつ過ぎずゆったりと包む

金属缶

金属製で耐久性がありますが、滅菌前後に窓を開閉するため気密性が劣ります。バリア性能が低く、長期保管はできません。

  • 使用後は洗浄と保守を行う
  • 必ず外部にインジケータを使用する(滅菌テープ)
  • 滅菌テープの糊跡は毎回きれいに取り除く
  • 滅菌テープに滅菌日を記載する

丸カスト(ドラム)

円柱上の丸い金属缶です。大きさの種類があります。

角カスト(ケッテル)

大きさは様々ですが、四角い金属缶です。

三連(二連)カスト

歯科でよく使われるタイプです。小型の角カストで中に仕切りがあります。

滅菌コンテナ

容器の耐久性が高くバリア性にも優れているため、長期保管が可能です。使用ごとに洗浄と保守を行います。フィルターの交換頻度は、フィルターの材質によって異なります。外側にラップ材は使用しません。

  • 必ず外部に識別ラベル(インジケータや情報カード)を付ける
  • 未滅菌のものを滅菌済みと間違えないよう表示する
  • 一度開封した場合は無菌性が破綻するので未開封状態が確認できるようにする

綿布(ラップ材)

大型の器具や重い器具の包装に使用しますが、バリア性は低いので注意が必要です。

繰り返し利用できますが、一度滅菌したらその都度洗濯が必要です。繊維がもろくなったり穴が開いたものは使用できません。

二重包装が原則です。2枚で2回包む場合と、あらかじめ2枚が1組になっているもので1回包装する使い方があります。

最近では、洗濯や綿布の保管管理の問題であまり使用されなくなっています。 

包装材の再使用禁止

単回使用(使い捨て)の包装材は、再使用厳禁です。

一度滅菌工程を通過すると、素材がダメージを受けて劣化するため、再使用はできません。PL法にも違反します。

滅菌バッグの紙面は、繊維が複雑に絡まっている状態でバリア機能を発揮します。一度滅菌すると、繊維が収縮して隙間が広がるため、二度目の滅菌でバリア性が著しく低下します。

 保管方法

 包装された滅菌物を、紫外線殺菌装置の付いたキャビネット等に収納するのはやめましょう。紫外線は、包装材の劣化を強力に促進するので危険です。

  • 直射日光が当たらない場所
  • 扉付で閉じられた空間
  • 水がかからない場所
  • ダンボール箱は禁止(虫、カビ)
  • 床上20cm以上、天井から45cm以上、外壁から5cm以上話す(結露よけ)
  • 内壁に立てかけてはいけない(壁の汚れを吸着する)
  • たまにしか使用しないものは扉や蓋付のキャビネットに収納する
  • 開放棚を使用する時はヒトの通行を制限しホコリがかからないようにする
  • 保管庫に立ち入る者は正しい服装をした管理保管担当者に限定する
  • 滅菌物を重ねて置かない
  • 滅菌物を、床、窓枠、棚、作業台、受付カウンターなどに放置・保管しない

引出に収納する場合は、開け閉めのたびに包装が擦れると危険です。引出の大きさと収納する器具の大きさ、入れる数を考えましょう。開放棚に保管する場合は、ファスナー付のビニール袋などに入れておくとよいでしょう。

滅菌物の配送

配送中に滅菌が破綻しないよう注意することが重要です。

  • 密閉式のカートまたはカバーを掛けてで運ぶ
  • 運搬に使用するカートは消毒・乾燥してから使用する
  • 滅菌物を顎や脇にはさんで持ち歩かない(汗などで汚染)
  • 使うかどうかわからないスタンバイは極力避ける(使うまで取り出さない)

滅菌バッグの二重包装

医療施設では、よくみかけることです。包装を二重にしたら、滅菌の有効期限が2倍になるという妄想があるのでしょうか。

  • 器具の形状で滅菌バッグを破損しやすい
  • 包装したまま無菌エリアに出したい
  • 小さな滅菌バッグをグループ分けするのにまとめたい

二重包装にしたからといって、有効期限の延長効果はありません。包装を二重にした場合、滅菌剤の内部への浸透に影響がなければ問題ないでしょう。ドイツなどでは、二重包装の内部の滅菌バッグもシールしてよいとされているようです。

日本では、「医療現場の滅菌保証ガイドライン」12.滅菌包装のバリデーションに書かれています。

  • 内側の滅菌バッグは外側よりも小さいものであること
  • 内部に滅菌剤が浸透できること
  • 滅菌バッグ同士がくっつかないこと
  • 内側のパウチを折りたたまないこと
  • フィルムとフィルム、紙面と紙面を合わせること

いずれにせよ、二重包装を前提とした製品ではありません。鋭利な器具は保護用の紙シートなどが販売されているので、活用したいところですが、価格の面で安易に滅菌バッグの二重包装を行うことが多いようです。

ヒートシールの2度打ち不要

シール強度に不安があったりシール幅が狭いことを理由に、シールを2本にしている施設を見かけます。シール強度が2倍になるなどのエビデンスはありません。

ロールの滅菌バッグを自分で加工している場合は、余分なシールスペースが必要で経済効率が悪くなります。シール強度に問題があれば、シーラーを選定し購入することをお勧めします。

まとめ

滅菌物の保管に「包装」は不可欠です。器具の種類、保管方法などを考えて選びましょう。

単回使用の包装材は、いずれも再使用厳禁です。再使用可能な金属缶等は、使用ごとに洗浄やメンテナンスが必要です。

包装材にも使用期限があります。ただし、期限間際の包装材を使用して滅菌した場合に有効期限が短縮されることはありません。(その分が見込んであります)

滅菌の有効期限、シールバリデーションについては、別の記事で。

面白い資料を見つけました。参考になりますでしょうか。

 「滅菌医療機器包装ガイドライン Ver.1.0」2014年1月 一般社団法人 日本医療機器産業連合会QMS委員会